【2023年2月23日 6:50 AM更新】
西区の歯医者、松田歯科医院の院長 松田拓己(歯科医師)です。
今回も代診の先生から診療に対する考え方について鋭い質問をいただきました。
『本日はウェットボンディング法を応用したレジンコアの接着に関してお聞きしたいと思います。 根管象牙質へのコアの接着に関しては、防湿等の技術的問題、象牙質の状態等の組織学的(?)問題から、なかなか高い接着力を出すことが難しいと聞いたことがあります。
また、ウェットボンディング法という技法も、修復の教科書等でしか見なくなった、ボンディングシステム改良段階の古い方法だというように認識していました。 しかし、接着に理想的な条件がそろわない環境においては、それを逆手に取ったウェットボンディング法というのは理にかなっていると思いました。
全く初めて聞いた手法でしたので、先生がそのような技法に至る源となった資料あるいは、考えがありましたら教えてください。』
「北海道歯誌 34:87-96,2014.」より
ご質問ありがとうございました。 当院は開業して26年を経過しましたが、当初は直接法用のレジンコア(ベルフィールコア)あるいはメタルコアをスーパーボンドで接着する方法で支台築造を行っていました。
北海道大学歯学部の中澤篤史先生(歯周・歯内療法学教室)らの論文ではスーパーボンドによる根管の封鎖性は良好であることが実験で証明されています。 水分があるところから硬化するスーパーボンドの特性が大きく寄与しているものと思われますがメタルコアを使用することによる歯根破折の危険性が悩みでした。
開業して数年経ったころに(株)クラレが旧製品から大きく改良されたパナビア フルオロセメントを発売し柏田 聰明 先生が同製品を用いた新しい支台築造法を提唱されました。
歯根破折を予防するために歯質と弾性率が近似しているCRコアを強力に根管象牙質に接着するためにクラレ社のADゲルで有機物を除去してからコンポジット系接着レジンセメントを使用する方法です。
発表と同時に当院でも導入し、すでに10年以上経過しても問題なく機能している補綴物が非常に多く存在しており、柏田先生の理論の正しさを日々実感しています。 現在でも松田歯科医院で行う支台築造の根幹となっている考え方です。
次にウエットボンディングについてご説明いたします。
象牙質の湿潤状態 が ウエ ツ トボ ンデ イングシステムの接着性 に及ぼす影響 につ いて
山本 一世ら 大阪歯科大学歯科保存学講座
クラレ社のADゲルで象牙質表面の汚染・有機物を除去して コンポジット系接着性レジンセメントの接着力を最大限に引き出す手法は 非常に有効でした。 しかし、この方法で使用するパナビアフルオロセメントは 使用する薬剤・材料の種類が多く手順が煩雑なことが当院では問題になりました。
特にセメントペーストのシリンジが2本独立しており 双方の量を正確に等しく取り出すことがスタッフの熟練を要すことと 根管内に確実にセメントを送り込む作業を行いづらいことに 大きなストレスを感じていました。
そのため、オートミックスタイプのシリンジを採用していた 他社のコンポジット系レジンセメントを導入しました。 ポスト形成された根管内でも細いチップで容易にセメントを送り込めるうえ、 スタッフの熟練は特に必要ないので 現在でもコアを装着する際にはオートミックスタイプの製品を使用しています。
しかし、パナビアの代替として最初に使用した接着性セメントでは 早期のコア脱離が数例みられました。 根管内の象牙質に確実に接着する上で特に注意すべきことは水分の存在です。 根管内を十分に乾燥させるのが困難なことは 日々の臨床で痛感させられるとともに論文でも報告されています。
水分、有機質の含まれる割合がエナメル質に比べて高い象牙質に コンポジットレジンを確実に接着させるために開発された 接着システムのひとつにウェットボンディング法があげられます。
先生がご指摘されているように かつて日本で販売されていたウェットボンディング用のボンディング材 『シングルボンド』(3M社)はテクニックセンシティブで 使用する術者によって臨床成績が著しく異なるということで 過去のものとして扱われています。 しかし、マニュアルに記載された術式に忠実に従って歯面処理を行えば 安定して良好な接着力を発揮することは 上記の山本一世教授(大阪歯科大学)の論文にも示されているとおりです。
山本教授の論文では、旧来の歯面処理剤と同様に歯質を乾燥させてしまう行為が ウェットボンディング材の接着力を低下させると指摘されています。 また、ウェットボンディングの考え方として 象牙細管内に存在する水分をボンディング材に含まれるアルコールで置換して レジンタグを形成させ接着力を得ることを期待しています。 そのため、象牙質表層に存在する水分を残さず置換するために ボンディング材を相当量窩洞に満たさなくてはなりません。
表面に一層ボンディング材を塗布する程度では 接着界面に水分が残る危険性が高いということです。
以上、
・マニュアルの術式に忠実に従う
・ボンディング材を十分な量使用する
という二点を守ればウェットボンディング材は良好な接着力を発揮します。
当院でもシングルボンドを使用しておりましたが、 CR充填の成績に関してはメガボンド等を使用した症例と同等でした。 日本では販売中止となりましたが、アメリカの3M本社ではシングルボンドは現在でも改良を続けられ販売は継続しています。
当院で現在コアの装着に使用しているオプチボンドは Kerr社のウェットボンディング材でありパナビアと遜色ない成績を収めています。 欧米で使用し続けられているウェットボンディング材が 日本ではほぼ消滅してしまっていることについてはやや残念な気持ちがしています。
西区の歯医者、歯科医|松田歯科医院
院長 松田拓己
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